「起業」は現在、生き方・働き方の一つとして浸透してきている。本業としてはもちろん、週末起業や社内起業のように、別に仕事を持ちながら小さく起業する人もいる。SNSでは自らのビジネスについて発信している人も多く(発信そのものが仕事の人もいる)、ひと昔前に比べて、馴染みある分野となったのではないだろうか。
とはいえ、まだまだハードルを高く感じている人が多い。夢を持ちながらも、なかなか踏み出せない人もいるだろう。では、勇気を出して起業の第一歩を踏み出すには、どんな考え方や行動が必要になるのだろうか? 特に小規模の起業にスポットを当て、その生き方・働き方に挑戦するためのステップとポイントをまとめてみた。
起業アイデアを見つける
いざ起業するとなれば、最初に考えなければならないのが事業内容だ。いきなり事業を考えるのは難しいので、まずはその種となるアイデアを見つけてみよう。
アイデアを具体化し、ビジネスモデルを検討する
起業アイデアを思いついたら、次はそれを具体的な商品やサービスに転換させる必要がある。それはどんな形で販売・提供することができるだろうか? ビジネスモデルを考えてみよう。
【1】そのアイデアは、販売できる商品やサービスになるか?
どんなに素敵なアイデアだったとしても、独りよがりな商品やサービスでは売りにくい。誰かに「売る」ことを意識する必要がある。どんな形にして提供するのか? 利益を出す仕組みにするにはどうすればよいか? 商品やサービスとして成立するか、検討してみよう。
具体的な形にするのが難しければ、似た商品やサービスがあるか調べてみたり、「ChatGPT」などのAIでアイデアを壁打ちしてみたりするのもおすすめ。AIを使う場合は、自分が持っているアイデアにまつわる質問を投げかけて答えてもらい、自身のアイデアの磨くべきポイントを探ってみよう。
【2】販路や販売手段はあるか?
販売ルートや販売手段も考えてみよう。お店を持つ、ホームページを制作するなど、商品によって適した手段は異なる。自分で場所を用意することが難しければ、既存サービスの力を頼ることも考える。例えば、お店であれば間借りやシェアサービスを利用する、ネットであれば「Amazon」、「楽天市場」などの大手インターネットモールや、「BASE」、「shopify」などのオンラインショップ提供サービスの活用が考えられる。それ以外にも、誰かに対価を支払い、代わりに売ってもらう手段もある。
【3】見込み客はいるか?
さらに、商品やサービスを提供する相手=見込み客を考えてみよう。 万人に売れる商品やサービスを考えるのは難しいうえに、熱のあるファンを作ることも難しい。属性や年齢、「〇〇に困っている人」など、ある程度ターゲットを絞るのがおすすめ。
その商品・サービスはどんな人に関心を持ってもらえそうか? その人々は個人か法人か? ある程度絞ることができたら、試しに見込み客にアンケートを取ったり、サンプルを提供して感想を聞くなどして、需要を探ってみるのも◎。残念ながら見込み客が思い浮かばない場合は、どんなにいい商品でも方向転換を検討する必要がある。
【4】競合はいるか?
似た商品やサービスを既に販売しているお店や会社があれば、それがどれくらいいるのか、そして、どんなふうに、どれくらいの価格で販売しているのか調べてみよう。
さらにもし自分が販売するとしたら、勝てる強みはどこなのかを考えてみる。競合は参考にもなるが、ライバルでもある。差別化を図り、勝ち抜く手段を検討しなければならない。
注意したいのは、同業者だけでなく、異業種でも競合の可能性があるということ。同じ価格帯で同じターゲット層が利用している可能性が高いものは、競合となり得る。また、もし競合がいない場合は、市場規模が小さい可能性も考えられるだろう。改めて見込み客がどれくらいいるのか、SNSやまわりへの聞き込みをして調べてみよう。
【5】価格設定はどれくらいか?
商品やサービスの値段を考えてみよう。価格設定の方法はさまざま。まず、商品やサービスにかかる原価に利益を上乗せする方法。あるいは、競合の基準に合わせて値段設定をする方法。自分が売りたいと思っている価格、お客様が納得する売れる価格、競合の価格の3つのバランスを上手に取ることが重要だ。
「コンセプトシート」を作ってみる
起業のアイデアを整理・具体化するときは、「コンセプトシート」を作ってみるのもおすすめだ。まず1枚の紙を用意し、下記の「6W2H」でイメージを書き出す。書き出すことでアイデアが整理され、イメージがより具体的になるほか、書いているうちに軸となるキーワードが飛び出すこともある。
<6W2H>
・When(開始時期や期間)
・Where(開始場所)
・Who(自分一人か? 共同経営か、雇用するか?)
・What(提供するサービスや商品は何か?)
・Whom(ターゲットとなる客層)
・Why(なぜそれを実行したいのか? 理由を改めて見つめ直す)
・How(どうやってサービスや商品を提供するか?)
・How much(いくらでサービスや商品を提供するか? 資金はいくら必要か?)
ちなみに、コンセプトシートを記録しておけば、後に見返すこともできる。経営や商品開発などの指針になるため、作成したらぜひ保管しておこう。
経営体制、事業計画を考える
具体的なビジネスモデルが出来上がってきたら、次に経営体制、さらに必要な資格、設備、資金など、細かい事業計画を練ろう。事業計画書を作成すると、詳細がわかりやすくなる。
【1】人数と経営体制
一人で行うのか、複数人で行うのか、個人事業主か法人化か? ビジネスモデルや自分のライフスタイル、価値観に合わせて経営体制を考えてみよう。複数人で行う場合は、採用計画も練る必要がある。個人事業主と法人ではさまざまな違いがある。個人事業主は開業までのステップが簡単、設立費用もなく手軽に事業を始められるが、法人の方が信頼度が高い、個人では取引してもらえない企業と取引できる可能性がある、融資を受けやすいなど、それぞれにメリット・デメリットがある。
自分で一から起業するのが難しければ、フランチャイズに加盟したり、M&Aで既存の会社を買収する手段もある。特に近年は企業の後継者不足が問題となっているため、引き継ぎ先を探している会社を探してみるのもいいかもしれない。また、会社によっては、社内で新規事業を立ち上げさせてくれる「社内起業」システムもある。
【2】必要な設備、備品
必要な設備、備品を洗い出してみよう。例えば、商品を自作する場合は道具や作業スペース、自宅以外を拠点としてビジネスを行う場合はオフィス、そのほか、商品やサービスを販売する店舗テナントやホームページのサーバーなどが考えられる。買う、借りる、外注するといった手段によってかかる費用も変わってくるため、どのように調達するかルートも具体的に検討してみよう。
【3】必要な資格、許可
提供するサービスや商品によっては、資格や許可が必要になる場合もあるだろう。例えば飲食店であれば「飲食店営業」の許可、お菓子屋さんであれば「菓子製造業」の許可を所轄の保健所から、中古品販売であれば所轄の警察署で「古物商」の許可が必要になる。自分のビジネスで必要になる資格や許可がないか調べ、適宜取得しよう。
【4】営業・販促・PRの方法
商品やサービスを知ってもらう、販路を広げるためにも、営業や販促、PRといった宣伝活動も重要だ。チラシ配布やポスティング、SNSやホームページの活用など、自分の商品・サービスにとって効果的なものを検討してみよう。また、自身の名刺も必要であれば作成しよう。
【5】必要経費・資金調達方法
上記の情報が揃ったところで、実際にどれくらいお金がかかるのかを計算してみよう。さらに、それらを揃える場合に自己資金で調達できるのかを検討してみる。
難しければ、別のところからの資金調達が必要になる。例えば銀行や日本政策金融公庫、地方自治体からの融資、クラウドファンディング、民間・公的機関で開催されるビジネスコンテストに参加、補助金・助成金申請などが挙げられる。
起業にまつわる公的機関の相談窓口
起業にまつわる悩みや相談事がある場合は、国や自治体が提供している公的機関の相談窓口を利用してみるのも一つの手だ。例えば「中小企業基盤整備機構」。国の中小企業政策の中枢を担う機関であり、さまざまな支援を行っている。相談も可能であるほか、「J-Net21」のような情報提供サイトも運営している。
あるいは、地域の商工会や商工会議所も、助けとなってくれるだろう。初めての起業であればなおさら、わからないことだらけが当たり前。不安なことがあれば、一度相談に行ってみよう。
小さな起業を成功させるポイント
自分でビジネスを起こすことは、実に大変な作業である。どうすれば成功に導けるのか、ポイントをいくつか考えてみる。
【1】起業の目的・ビジョンを明確にする
起業は準備も大変なうえ、続けていくこともまた、努力や苦労を伴う。ゆえに、自分を鼓舞し、楽しみながら続けるための工夫が必要になる。そのための第一歩としておすすめしたいのは、起業の目的・ビジョンを書き出してみることだ。
単純に収入源を持ちたい、増やしたいというだけであれば、起業に拘る必要はない。被雇用者として働くやり方はもちろん、投資なども考えられるだろう。
それでもあえて起業しようと思うのは何故なのか? 起業して、どんな将来を実現させたいのか? 目的やビジョンを明確にしてみると、自分のしたいことやありたい姿がはっきりとしてくるはずだ。それを元に、起業計画を始めることができれば、起業がより身近で、わくわくし、やりがいのあるものに感じられるのではないだろうか。
【2】ハードルを下げて着実に進む
人材が足りない、お金が足りない、自信を持って売れる商品やサービスができていない……起業にはいくつものハードルがあり、悩みも尽きない。ゆえに完璧に準備してから起業しようと思うと、なかなか始められないこともある。
そんなときは、未完成でもいいから一歩踏み出してみることが大切だ。経営をしていく中で気づくことや、商品やサービスを見かけた人にフィードバックしてもらえることもある。トライ&エラーを繰り返し、長期的な目線で取り組んでみよう。
起業を小さな一歩から始める重要性は、さまざまなところで語られている。例えば、今井孝『起業1年目の教科書』では、「起業とはハードルの高い大きなチャレンジだ」という考えは「勘違い」だと断言し、「ありきたりのアイデアでスタートする」「夢はなくてもいい」「数字に弱くていい」と起業のハードルを下げつつ、自分のペースで着実にステップアップできる手法を解説している。
あるいは吉田満梨・中村龍太『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』では、自分が既に持っている手段から「何ができるか」を考え、行動を起こす「エフェクチュエーション」が起業に有用であることを主張し、その考え方と実践方法をまとめている。
早々に大成功することを夢見るのも悪くはないが、急激な成長はハイリスクであるほか、ストレスになることもある。無理をし過ぎず、自分のペースで成長していくことを目指そう。
【3】小さな試行錯誤・改善を繰り返す
完璧な商品やサービスを作るには、膨大な時間やコストがかかる。さらに自分で完璧だと思っていても、それが売れるとは限らない。初めから完璧にしようと思わず、とりあえず試作し、誰かに意見を仰ぎ、改良を繰り返していくことが大切。試しに小ロットで販売して、お客様のフィードバックを参考にしてみるのもいいのではないだろうか。例えば、以下。
- 飲食店をやりたい⇒誰かに料理を食べてもらう、誰かをもてなしてみる、間借りで期間限定営業に挑戦する
- CDを売りたい⇒デモを作って誰かに聞いてもらう、数量限定で販売する
- オリジナル商品を販売したい⇒イメージ図や3Dモデル、試作品を作って意見をもらう、数量限定で販売する
スキル不足、知識不足は回数を重ねながら補っていくつもりで、最初は商品・サービスの基盤を作っていると考えてみよう。
ジム・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー』では、名だたる企業が小さな実験を繰り返してきていることに触れ、「小さな一歩が、大きな戦略転換の基礎になり得ることを忘れてはならない」と指摘している。「一歩ずつの革命」が、やがては自社や自店の礎になるはずだ。少しずつ修正を繰り返し、粘り強く強固な基盤を築いていこう。
【4】複数の商品・サービスでリスクを分散する
初めは一つの商品・サービスで十分だが、後の経営を考えると、複数の商品やサービスを展開し、リスクヘッジを行うことが望ましい。提供している商品・サービスに関連するものを併せて売るのもおすすめだ。
一つに絞る手法も有効ではあるものの、すぐに自分だけの売れる商品・サービスが出来上がるとは限らない。やってみたいビジネスをいくつか試しにやってみて、後から絞っていくこともできる。
【5】何を「しない」かを決める
ある程度のリスク分散は、身を助けてくれる。その一方で、何でもかんでも手を出しすぎるとキャパシティオーバーになったり、中途半端になってしまうこともあり得る。何を「しない」かを決めることもまた、起業において重要。あらゆる誘惑を断ち切って、自分の最優先事項に集中しよう。
また、起業の場合は熱意を持って取り組み続けられるかがカギになる。業務の中に、どうしても苦手なこと、ほかの作業に比べて多大な時間がかかってしまうこと、モチベーションが下がってしまうことがあれば、自分で取り組むのを止めて、ほかの手段に変えられないか、外注できないか検討してみよう。
【6】当初のアイデアや考え方に固執しすぎない
最初に練りに練ったアイデアや戦略は、強い味方となってくれる。しかし、もし何か間違っているかもしれない、失敗したかもしれないと考えるのであれば、一度立ち止まって軌道修正することも大切。起業したからこそ見える道もある。
失敗していると思いながらも、こだわったアイデアだからといって固執しすぎてしまうと、損失がどんどん大きくなっていく。もし修正できないと感じたら、見切りをつける勇気を持とう。
【7】事業に関連する知識を学び続ける
自分が身を置く業界のこと、市場のこと、ビジネスの基礎知識など、事業に関連することは、少しずつでもいいから学びつづけよう。
特にお金の知識は重要だ。経理、税金、資金繰りなど、どんなに小さな事業でも、自分でビジネスを行って報酬を得る限りは、お金の問題から逃れられない。専門的な知識を身に付ける必要はないが、身のまわりのお金を管理できる最低限の知識は持っておきたい。
そのほか、マーケティングや集客、ブランディング、SNS活用など、自分の事業に関連性の高いことは、随時知識を身につけていきたいところだ。
【8】ダブルワークや副業・複業も視野に入れる
いずれ起業したビジネスを本業にするとしても、すぐに仕事を辞める必要はない。副業や複業で起業する手段もあるし、今の勤務先で起業のための実績を積んだり、起業に向けて実践力を磨いたりするのも◎。
例えば、パトリック・J・マクギニス『10%起業 1割の時間で成功をつかむ方法』では、自分の時間のうち、たった10%を活用して起業するアイデアや実践方法を提案している。「いちかばちかの賭けではなく、今の生活に付け足す」(p.9)ビジネス。これは先に述べたポイント、「ハードルを下げて着実に進む」「小さな試行錯誤・改善を繰り返す」にも通ずる。
【9】時間管理や健康管理にも気を遣う
起業には時間も、体力も必要になる。特に本業が別にある場合は、その配分により気をつける必要がある。長く、安定的に事業を続けるためにも、時間管理・健康管理にはしっかりと気を配ろう。
小さな起業に役立つ本
最後に、これまでに紹介した書籍以外で、起業に役立つ本をまとめる。自身の考え方や起業予定のジャンル、今抱えている悩みなどに合わせて、参考になりそうなものを手に取ってみてはいかがだろうか。
『起業に失敗しないための知識とノウハウ』松井淳・モノコト総合研究所
起業の基本的な知識を、一から丁寧に解説。事業の始め方、資金調達の方法、ビジネスモデルの仕組み、起業戦略の基礎、事業計画書の作り方、集客や人材採用のポイントに至るまで多角的に網羅している。読者特典として、ダウンロードできる事業計画書のフォーマット、数値計画計算シート付き。
いつか起業してみたい、こんなビジネスをやってみたい……脳内で考えていてもなかなか挑戦できない人はかなり多いが、それではもったいない。頭の中にすでに小さなアイデアや夢があるなら、スモールスタートでいいから一歩踏み出してみてはどうだろうか。
起業は決して簡単なことではないが、難しく考えすぎる必要もない。低リスクで始めてみて、「何か違う」と思えばまた、やり直せばいい。まずは今できることから、やってみよう。
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