特に小さなお店では、お客様とスタッフとの距離が比較的近くなる傾向にある。スタッフとのコミュニケーションや小規模経営ならではのサービスなど、人と人とのつながりでリピーターやファンになってくれるお客様も多いだろう。ゆえに、接客は経営の要にもなり得る。
では、どうすれば、お客様もお店側も心地の良い接客を提供できるのだろうか? 小さなお店の接客で大切にしたいことを考えてみる。
手間や不安、不快をできるだけ取り除く
まずは接客が活きる、お店の基盤づくりを実践したい。その大きなカギとなるのは、お客様にとっての手間や不安、不快をできるだけ取り除くことだろう。例えば、以下の点を検討してみる。
・必要な商品・サービスのラインナップは揃っているか?
・お客様が見やすい、注文しやすいディスプレイやセッティングができているか?
・商品やサービスの質・価格は適切か?
・クレンリネスは行き届いているか?
・動線が悪い、オペレーションが悪い、決済手段が少ないなど、お客様の不便につながる原因はないか?
お客様が不安・不快に思われる理由もまた、多様だ。しかし逆を言えば、この理由が少なくなればなるほど、お客様はストレスなくお店を利用できるようになり、満足度向上にも良い影響をもたらす。
『すぐ使える! 接客1年生 お客さまに信頼される50のコツ』(七條千恵美)では、お客様の感情は、気分や天候など、お店以外の要因によっても左右されることを指摘し、せめてお店側でできる準備をしておこう、と提案している。
すべてのお客さまの感情の変化に気づき、ご満足いただくのは至難の業です。
だからこそ、しっかりと「準備」をして臨んでほしいのです。
では、その「準備」とは何か?
それは、接客サイドに起因する、お客さまを「イラッ」「モヤッ」とさせる要因を排除しておくということです。(p.19)
もちろん、お店側の個性として、あえて残している手間もあるだろう。こだわりがあるものであれば問題ないが、お店とお客様、双方のためになっていない手間や不便は、早めに改善したい。
接客の基本を押さえる
続いて、身だしなみや挨拶、言葉遣いなど、接客の基本を押さえることも欠かせない。一見当たり前のことにも思えるが、振り返ってみると意外とできていないことも多い。
もちろん無理に明るく声を張り上げるといったことをする必要はない。大切なのは、お客様に気持ちよくお店を利用してもらおうという心遣いだ。例えば、下記のような取り組みが考えられる。
・スタッフの服装や髪の乱れを整える、清潔を保つ
・意識して背筋を伸ばす
・相手の目を見るように心がける
・「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」などの流れ作業になりがちな言葉を、心を込めて言う
・笑顔、もしくは口角を上げるように努める(真剣に話を聞く場合には笑わないなど、状況に応じた使い分けが必要になる)
・丁寧語、わかりやすい言葉遣いで話す
・スタッフ同士での私語をなるべく控える
ちょっとした振る舞いに気を付けるだけでも、印象は変わる。また、始めから完璧にできなくても、やってみようという心意気は接客にも反映されるはずだ。
言葉遣いや電話の取り方などの接客ノウハウは、マニュアルにまとめて共有する、動画や書籍、研修で学ぶなどして取り入れていくことが望ましい。「接客サービスマナー検定」や「サービス接遇検定」のような資格を取るという手もある。また、座学だけで習得することは難しいため、ロールプレイング、OJTといった実践的なトレーニングの時間もしっかりと確保したい。
また、こうした基本は忘れやすいほか、時代の流れやお店の経営方針とともに変わっていくこともある。定期的にマニュアルを見直す、ミーティングで確認する、学び続ける姿勢を持つなど、維持・改善を大切にしたい。
接客方針を固める
お店によって、適した接客スタイルは異なる。例えば、気軽に入れる居酒屋であるにもかかわらず、高級レストランのような接客を行えば、お客様も居心地が悪く感じてしまうだろう。そこで、自店に適した接客とは何かを改めて整理し、接客方針を固めておきたい。これを考えるにあたっては、例えば、以下の情報を整理してみるのはどうだろうか?
・お店のコンセプト
・どんな目的をもってお店を運営しているのか?(ビジョンやミッションなど)
・お客様にどんな気持ちで過ごしてもらいたいか?
・商品やサービスを通して、どんなことを提供したいか?
・自分たちがお客様にできることは何か?
重要なのは、自分たちが考える「お店らしさ」を損なわず、かつ、大切にしたいと思う(ターゲットとしている)お客様に、気持ちよくお店を利用してもらえるかどうか。これを念頭に置きながら、接客を通してしたいこと、したくないことを洗い出す。
ちなみに、日々営業していく中で、接客方針を変えた方がいいと思うこともあるだろう。もちろん、随時見直しや改善は必要だが、無闇に変更することは、従業員やお客様を混乱させることにも繋がる。変更する場合は、なぜ、何のために変更するのかを明確にし、従業員にも理由とともに共有することが欠かせない。
お客様をよく観察する
接客方針を固め、接客マニュアルなどを完備したとしても、それがすべてのお客様に通用するとは限らない。お客様はそれぞれ異なる価値観や欲求を持っているため、彼らを観察し、必要なサービスを提供できるように心がけたい。
営業中は店内を見回し、失礼にならない程度にお客様を観察する。例えば、スタッフの方をじっと見ている場合は、何かを頼みたいのかもしれない。落ち着かなさそうにしているときは、何か困っていることがあるかもしれないなど、ある程度わかることがあるだろう。
適した座席や、おすすめできる商品・サービスも、お客様を観察する中でわかることもある。例えば、飲食店などで小さいお子様連れで来店された場合、子ども用のカトラリーやチャイルドチェアを用意する、外国人のお客様には英語メニューや英語を話せるスタッフの配置を行うなどが考えられる。商談などのビジネスシーンが想定される場合は、個室や端の席を案内するという手もあるだろう。
お客様の話を聞く
観察するだけでなく、お客様の話をきちんと聞くことも、大切にしたい。話を聞く際には、例えば、下記のようなことを気にかけてみる。
・お客様の要望を復唱し、確実に聞き取る(「聞いてくれている」という安心感を与えるためにも◎)
・お客様の要望や利用シーン、好きなものや苦手なもの、アレルギー、予算など、必要な情報を質問する
・商品やサービス利用後に感想を聞く(今後に活かす)
・知らないことがあれば、素直に知らないことを伝え、お客様に教えていただく(ただし、商品や業界の知識など、できるかぎりのことは学んでおく必要がある)
注意したいのは、接客に慣れてきて「このパターンにはこの接客をすべき」と決めつけてしまうことだ。それが度を超すと、途中で話をさえぎってしまったり、一方的におすすめの商品やサービスを紹介してしまうことにも繋がる。先述の通り、お客様の考え方や要望、好みは一人ひとり異なる。きちんと話を聞いて、受け止め、それに応じた接客を行うという基本を忘れてはいけない。
お客様の話を聞くことが特に重要になるシーンは、例えば、下記のような場合があるだろう。
・美容院など、サービスの合間にお客様との会話をする場合(話したい・話したくない・自分の気になる話題であれば話したい・そのときの気分によって変わるなど)
・常連になってくださったお客様の場合(顔や名前を覚えて声をかけてほしい・ある程度放っておいてほしい)
・飲食店など、複数名で来店されたが、関係性や利用シーンが読めない場合(希望の席やサービス)
・ふらっと来店されたお客様で、要望などがまったくわからない場合(スタッフに話しかけてほしい、あるいは自分のペースで商品を見たいなど)
どれも見極めることは難しいが、少し会話をして様子を見たり、事前にアンケートなどを取って好みの接客を聞くといったやり方が考えられる。いずれにせよ、少しずつコミュニケーションを取りながら、丁寧に要望をくみ取りたい。
お客様の視点に立って考える
自分では良かれと思って行った接客も、時と場合、相手によっては余計なお世話になることも少なくない。そこで「今・この状況で、このお客様の立場の場合、どう思うか?」を常に考える必要がある。『普通なのにまた行きたくなる「すごい接客」』(筒木幸枝)では、「実際にはお客様の気持ちが把握できないことも多いものの、相手の視点 に立って考えようとすることが接客術」(p.145)だとしている。
例えば、いつもなら会話をしてくるお客様が、今日は「はい」しか答えないなら、 こんな感じになります。
「そういえば、先日、何かの試験を受けると話していた。結果が良くなかったのかな。 話しかけるのは止めて様子をみよう」
このように今回だけではなく、前回、何を話したかまでも思い返してお客様の視点で考えます。(中略)同じ店員の同じ行動が、あるお客様にとっては感謝になり、別のお客様にとっては 苦情になり得ます。そのため、お客様の表情・態度を読み取る「観察力」を身につけ、 観察した点から心の中を「察知」し、的を射た対応ができるようにします。(p.144-146)
このほかにも、下記のような点に気をつけたい。
・常連のお客様と新規のお客様がいらっしゃっている場合に、常連のお客様ばかりと会話してしまう(新規のお客様の立場になってみるとどうか?)
・先に注文したお客様より、後に注文したお客様の方に商品が届いてしまう(先に注文したお客様はどう思うか?)
お客様の視点に立つことをせず、接客が自己満足になってしまっている場合は、考えを改める必要がある。大事なのは、お客様がどう思うかだろう。完璧な接客技術を披露できても、お客様が満足していなければ意味がない。難しいことではあるが、日々少しずつ考え続けることが、改善へと繋がっていくはずだ。
スタッフのケアを大切にする
接客は、体力も精神力も大いに使う業務といえる。そんな業務に真剣に取り組んでいるからこそ、疲弊してしまうスタッフもいることだろう。そこで、従業員はもちろん、経営者自身も、心身のケアが大切になる。例えば、下記のようなアイデアはどうだろうか?
・定期的なミーティングを設け、スタッフの話を聞く・話し合う機会を作る
・労働環境を整え、できるだけストレスの少ない職場づくりを心がける
・メンタルケアの方法を学ぶ
・しっかりと休息を取る
・時間と心に余裕を持てるよう、DX化など業務効率化を実践する
・チームビルディングを行い、スタッフ間のチームワークを高める
経営者自身を含むスタッフを大切にすることは、お店の雰囲気を良くし、ひいてはお客様満足度の向上にも繋がることだろう。接客を向上させる面でも、スタッフのケアは重要と言える。
お客様が必要とする情報を学び続ける
先にも述べたが、時代の変化、お店の経営方針、扱う商品やサービスの変化など、さまざまな要因から、接客に必要な知識や情報は変わっていく。さらには、お客様によって疑問に思うこと、スタッフに聞きたいことも変わってくるため、お店側は常に学ぶ姿勢を大切にしたい。例えば、下記のような取り組みをしてみるのはどうだろう?
・外部の研修や講習に参加する
・扱っている商品やサービスの資料を読み込む、気になる点を調べる
・実際に商品やサービスを使い、感想をまとめる
・ニュースや新聞から、今の情勢や市場の状況を学ぶ
・お客様に聞かれた質問をまとめ、それに必要な知識を学ぶ
・自分の趣味や関心のあることの知識を深め、お客様とのコミュニケーションに役立てる
・いろんなお店に行き、接客で良かったことを参考にする
『「日本一の添乗員」が大切にする接客の作法』(原好正)では、接客の際、「うまくやろう」と思う前に、お客さまのためにできること を一生懸命やるところから始めればいいのです」(p.26)と提案している。質の高い接客を志すことはとても大切だが、そのためにまずは自分のできそうなことから始め、少しずつステップアップしていくことを目指したい。
また、接客の質を高めることは、クレームを減らす、自分たちのストレスを減らし、心地よい店舗経営にもつながる。良い口コミを書いてくださるお客様が増え、従業員のモチベーションアップにもつながる可能性があるだろう。
参考文献
『海外のお客様の心もつかむ ファンをつくる接客術』仲亀彩
『すぐ使える! 接客1年生 お客さまに信頼される50のコツ』七條千恵美
『「日本一の添乗員」が大切にする接客の作法』原好正
『普通なのにまた行きたくなる「すごい接客」』筒木幸枝
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