お店として質の高い購入・利用体験を提供するには、経営者はもちろん、従業員の高い志や技術が欠かせない。しかし、この志や技術は、何もしなくても育つ……ことはなかなか難しい。お店側から積極的に教育の場を設け、従業員と協力しながら磨き上げていく必要がある。では、どんな考えを持って、どう取り組めば良いのだろうか? お店の人材育成において大切にしたいポイントを考えてみる。
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お店のスタンスを共有する
まず、このお店がどんなお店なのか、お客様にどう過ごしてもらいたいのか、どんな未来を目指しているのかなど、スタンスを理解してもらう必要がある。このスタンスを説明する際、例えば、下記のような項目が一つ、あるいは複数決まっていると、伝えやすい。
・コンセプト
・ビジョン(目指したい未来)
・ミッション(叶えようとしている使命)
・コアバリュー(大切にしている価値観や信条)
・経営理念(信念や理想など、お店の軸となる考え方)
お店が大切にしたい考え方や思いを、始めにしっかりと共有したい。もしこうした思いが不明確の場合は、改めて整理、定義するところから始めたい。
目指す先や大切にしていることがわかれば、従業員もそれに合わせた行動を取りやすい。トラブルに見舞われたときでも、これらを軸に考えたり、話し合ったりすることができるだろう。共有の方法としては、最初に口頭で伝えるほか、定期的にミーティングで伝える、ポスターにしてバックオフィスに貼っておくなども考えられる。
習得してほしい内容、ゴールをはっきりさせる
先述の内容に加えて、具体的にどんな技術を習得してほしいか、どんなふうに育ってほしいのか、ゴールをはっきりさせる。このとき、中・長期的な視点で考えたゴールを設定しつつ、それに準じた短期的な目標を設定すると進めやすいだろう。
ゴールはお店の要望を組み込むだけでなく、従業員自身が成長できるものであることが欠かせない。そのためには、お店が目指したいゴールと、従業員自身が目指したいゴールをある程度リンクさせることが重要になる。
まずお店側は、スタンス以外にも、お店の課題や実践すべき戦略も整理し、自店に何が不足しているか、お店としてどんな成長を遂げていきたいかを、見つめ直す。そして従業員には、アンケートやミーティングを実施し、育成に対する要望や目指したい未来を聞く。彼らの強みや長所、苦手な分野、さらに意見や要望、お店で実現したいビジョンなどを教えてもらい、育成に活かすことができると望ましい。
ゴールの具体例としては、例えば、新人スタッフには、一通りの業務をできるようになってもらう、ビジネスマナーを身につけてもらう、先述のコンセプトなどのお店のスタンスを理解してもらうなどの目標が考えられる。ベテランの従業員には、新人スタッフのメンターやマネジメント、仕入れや会計にも携わってもらうなどが考えられるだろう。
管理職になってもらいたい場合は、さらに、リーダーシップや経営戦略、組織開発、チームビルディングなどについても学んでもらう。これ以外にも、ハラスメントやコンプライアンスに関する理解などは、スタッフ全員が理解すべきだろう。
これらのゴールに応じて、研修やトレーニングの計画を立てていく。
複数の手段で教育を実践する
人材育成の方法は一つに絞らず、複数の手段をもって挑みたい。習得してほしい内容によって、適した方法は異なるからだ。
例えば、『仕事を教えることになったら読む本』(濱田秀彦)では、教えることを「設定したゴールに相手を運ぶために、知識、技術を付与し、意識を高めること」と定義している。ゴールが「定型的な電話を受けて応答できるようになる」であれば、これに対して必要な知識・技術・意識は次のようになるという。
知識:定型的な電話の受け答えの一連の流れ(セリフを含めて)
技術:セリフを相手に聞き取りやすく言える・状況に応じてセリフを使い分けられる
意識:受け答えに気持ちを込める
知識はこちらから付与する必要があり、技術はトレーニングを積む必要がある。意識はこちらから共有するほか、相手から引き出すことも欠かせない(同書ではコーチングの手法を取り上げている)。ゴールに向かうためにはどんな手段が必要なのかを整理し、複数の手段を検討・実践しながら育成に臨みたい。
なお、人材育成の具体的な手法については、例えば、下記が考えられる。
・OJT(On-the-Job Training)
上司が付き添い、実務を通して必要な知識やスキルを学んでもらう
・Off-JT(Off-the-Job Training)
研修やセミナー、ワークショップなどのように、実務から離れて学んでもらう
・自己啓発
資格取得や通信教育、読書、eラーニングなどのように、従業員が主体となって学んでもらう
Off-JTや自己啓発は実務とはいったん離れる育成方法だが、実務の際に思い出しながらやってもらう、実践後に学んだことと併せて振り返ってもらうなど、実務とリンクさせながら学んでもらうのが望ましい。
人材育成の時間を確保する
上記のような取り組みを行う上で最も重要となるのは、時間の確保だろう。人材育成は一朝一夕ではできないため、長い目で見て計画する必要がある。一気に教えたところですぐに覚えるのは難しいほか、余計なストレスを与えてしまうなど、結果として業務効率を下げることにも繋がる。ゆえに育成の時間をきちんと取り、一つひとつスキルアップしてもらうイメージで、丁寧に育成計画を立てていきたい。
目先だけでなく、数か月、数年後にどんなお店になっていたいか、そのために、従業員にどうなってほしいかを考え、従業員自身がやりがいを持って成長し続けられるスピードに合わせ、進めていく。
とはいえ、忙しい業務の中で時間を確保するのは、なかなか難しい。そこで、下記のような取り組みを行うのはどうだろうか。
・業務の一覧を作成し、無駄を見直しつつ、育成時間を確保できるか検討する
・キャッシュレス決済やPOSレジ導入、予約システムやシフト管理システムの導入など、デジタル化による業務効率化を検討する
・マニュアルやタスクリストを作成し、業務の見落としを削減する
効率化や生産性向上を実践し、育成にあてる時間を捻出したい。
従業員が成長しやすい環境を整える
時間の確保に加えて、従業員が成長しやすい環境を整えることもまた、育成にとって重要なポイントである。具体的には、下記の取り組みが考えられる。
・失敗を恐れず、積極的に挑戦できるような心理的安全性の確保
・評価制度の整備(努力や過程も評価できる仕組みづくり)
・学んだことを実践できる場の整備(学びを形骸化させない工夫)
・スキル(できること、できたこと)の可視化
・育成の効果測定(従業員満足度、顧客満足度、売上や生産性などへの影響の可視化)
・定期的なミーティングや日報作成など、報連相しやすい仕組みづくり
・マニュアルやハウスルールなど、困ったときにすぐに確認できる資料の制作
また、成長しやすい環境づくりで特に大切なのは、彼らのことを理解し、彼らからも信頼してもらうことだ。そこで、さらに以下のような取り組みも考えてみたい。
・強みや長所を活かせる業務を割り当てる
・苦手な分野をどうフォローできるかを、一緒に考える
・積極的に意見を言ってもらえるよう、定期的にミーティングやアンケートを実施する
・お店側の考えばかりを押しつけない、否定ばかりしない
・傾聴を心掛け、従業員の意見を尊重する、彼らを受け入れる姿勢を見せる
・感謝や謝罪は特にしっかり伝える
全部をいきなり実施することは難しいため、一つひとつ、できることから始めてみるのが望ましい。環境を整えようとする姿勢こそが、従業員との関係づくりの第一歩と言える。
フィードバックやフォローを大切にする
一方的に教えるだけでは、従業員が本当に覚えられているかわからないだけでなく、彼らの不安や悩みを解決できない。教える側にも、「これで大丈夫なのか?」と不安が残るだろう。そこで欠かせないのが、適切なフィードバックやフォローである。
教えて、実践してもらった後は、具体的な振り返りを行い、良かった点や改善点を伝えたい。また、失敗やできないことがあった場合は、何が起こっていて、どうすれば改善できるのかを考えることが欠かせない。単なる責任の追及は相手を委縮させるだけで、ほとんど意味をなさないだろう。あくまで、どうすれば良くなるかを中心に考える。できれば従業員にも一緒に改善方法を考えてもらい、お店側と従業員、双方が心地よい形で向上していきたい。
さらに言えば、一度で改善することは難しいため、適宜フォローしながらその行方を見守っていく。不安のある業務の流れを一緒に確認したり、1on1のミーティングでコミュニケーションをとったりしてみる。時間はかかるかもしれないが、こうした丁寧な作業が、のちの仕事効率を格段に上げるだろう。
従業員の自主性を大切にする
従業員に意欲的に育成計画に取り組んでもらうには、彼らの自主性を大切にすべきだ。人に言われてやらされるような形では、効果的な成長は望めないほか、お店側にとっても、従業員自身にとっても、余計なストレスがかかる。
『自分の頭で考えて動く部下の育て方』(篠原信)によれば、「自分の考えた内容で、自分のペースで進めていい、となると、人間は仕事を「自分事」として捉えることができるようになり、意欲を持って取り組めるようになる」という。
部下に意欲的に自発的に頑張ってほしいなら、仕事はなるべく部下自身に組み立てて もらうこと。あるいは自分の考えが反映された仕事だと部下が実感できること。「あまり頑張りすぎるな」と伝えること、が大切なのかもしれない。(p.247)
例えば、目標を立ててもらう、従業員自身が解決策を考えられるよう質問を投げかけてみる、自分で考えてもらう時間を設けるなどが考えられる。また、成長段階に応じて、少しレベルの高い仕事を任せてみて様子を見るという手段もあるだろう。
ただし、任せる場合にも、適切なサポートが欠かせない。単なる丸投げでは従業員を困らせるだけになってしまう。任せる前には考え方を共有したり、ロールプレイングをしたり、自分が手本としてやっているところを見せるなどを行う。さらに確実にやってほしいことは先に伝えつつ、「どうすればいいと思う?」と一緒に考えてもらう、「ここまでできたら教えて」「困ったらいつでも聞いて」と相談できるフォロー体制を整えるなどが考えられる。もちろんできたことは褒め、きちんと評価することも欠かせない。
育成する側も学び続ける
教える側は「自分が持っている知識を相手に付与する」イメージがあるかもしれないが、時代やお店を取り巻く情勢の変化などによって、教えるべき知識や教え方は随時変化・進化していく。ゆえに、教える側も学び続ける姿勢を大切にしたい。例えば、下記のような取り組みはどうだろうか?
・世の中の情勢、業界の情報収集を定期的に行う
・経営者や管理職の研修を受ける
・ティーチングやコーチング、ロジカルシンキング、目標管理など、育成に関わるスキルを磨く
人材育成は熱量高く行うことで、経営者・従業員双方のためになる。顧客満足度向上や生産性向上、そして売上向上にも大きな影響を及ぼすだろう。魅力的な人材は、店舗経営にとって欠かせない。きちんと育成できる環境を、少しずつでも整えていきたい。
参考文献
『仕事を教えることになったら読む本』濱田秀彦
『自分の頭で考えて動く部下の育て方』篠原信
『世界最高のコーチ 「個人の成長」を「チームの成果」に変えるたった2つのマネジメントスキル』ピョートル・フェリクス・グジバチ
『世界の一流は「部下」に何を教えているのか 年収が上がるマネジメントの法則』ピョートル・フェリクス・グジバチ
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